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2020-01

生物多様性が付加価値となるマーケットが存在する

■都市開発に生物の視点を、清水建設×住友信託銀行

都市をつくるための資金を供給する金融機関と実際に現場で建設事業を担う建設会社。日経アーキテクチュア2010年10月11日号の特集「都市の新鉱脈は『生物』」の企画の一環として、異なる立場でまちづくりを担う企業で都市開発と生物多様性を両立しようとするキーパーソン2人に、将来の都市建設の方向性などを議論してもらった。

1人は住友信託銀行企画部の金井司CSR担当部長、もう1人は清水建設地球環境部の岩本和明部長だ。


――都市に生物多様性の考え方を取り入れていくことは可能か。

岩本:非常に難しいテーマだ。密度を上げて効率よく活動するために、世界の半分の人口は、陸地面積の3%に相当する地域に集中している。そうした都市においても、社会は生物多様性を実現しようとする流れにあり、都市のあり方自体を見直すべきだという意見も出てきている。

金井:既にでき上がっている都市を変えていくのは至難の技だ。都市ではコストも余分にかかる。環境に配慮する建物では、必ずコストの壁に突き当たる。コストの壁を打ち破るためには、不動産価値自体が高く評価される市場の創造が必要で、当社はそれを研究してきた。
通常の建物は、竣工した途端に価値が低下し始める。他方、生物多様性に配慮した建物では、時間の経過に伴って生態系の回復が進み、建物の劣化を相殺する。このような視点を付加価値の算定に取り込めないかと思う。

岩本:コストという視点では、建物は消費財よりも条件が厳しい。一般の消費財では、環境配慮のために5%の上乗せが認めてもらえると言われる。しかし、例えば100億円の建物に5億円の上乗せというのは、現在の経済情勢を考えると非常にハードルが高い。
緑化面積に応じて容積率を割り増すようなアイデアもあるが、このやり方にも課題がある。生物多様性の視点で考えると、建設後にその多様性をどのように維持しているのかが重要だからだ。

○生態系に配慮した緑化が生産性向上に


――生物に配慮した不動産は市場で評価を受けないのか。

金井:生態系など環境に配慮した不動産への投資を好む投資家は、間違いなく現れてきている。例えば、恐らく世界で2番目に大きい資金を持っているノルウェーの政府系ファンド。ここが債券に投じてきた2兆円を不動産に切り替えると発表した。対象は先進国の優良物件だ。
このときの評価には環境と社会、ガバナンス(ESG)の視点を取り入れている。われわれが市場に呼び込みたいのは、購入時は割高でも長い目では投資に見合うと考え、サステナブルな不動産を求めるこうした長期投資家だ。

岩本:東京近郊の斜面林が残った場所で、当社がマンションを建設した際に、近隣住民が林の保全を強く主張した。地元の人などと協議して残すことを決めたところ、そのマンションは売れ行きが好調だった。緑をはじめとした生物多様性が付加価値となるマーケットが存在すると感じた。

金井:ある大手住宅メーカーからこんな話を聞いた。「山林に近い場所で住宅を分譲したところ、普通は南の道路側の家から売れるのに、この分譲地では山林側から売れた」。これまでと違った価値観が出てきていると思う。
オフィスについても生物環境に対する潜在ニーズを示すデータがある。住信基礎研究所が東京と大阪のオフィスで働く565人に対してアンケート調査したところ、緑地空間の存在が創造性に影響すると感じている度合いが強いことが分かったのだ。
しかも、単なる緑化ではなく、生態系を守るような緑化にすることに賛成する人が76%に達した。同じ緑でも鳥や蝶が飛んで来る方が、生産性向上に寄与する度合いが大きいと推察できる。

○これからは予測技術が重要に

――生態系に配慮した開発を促すために必要なことは何か。

岩本:これからは尺度が必要になってくる。例えばCASBEE(建築環境総合性能評価システム)では、生物多様性に関連した評価項目が1つ含まれているが、充実させる余地はある。今後は、生物多様性に特化した評価指標も求められるだろう。
CASBEEでは、各種の環境対策を俯瞰(ふかん)した総合点を算出している。高得点だからといって生物多様性への対策が評価されているとは限らない。

金井:資産運用の世界にコアとサテライトという考え方がある。コアは安定的な運用で、ヘッジファンドなどはサテライトに相当する。総花的指標としてCASBEEを、生物多様性に着目した指標としてHEP(ハビタット評価手続き)を、それぞれ用いる。CASBEEに、売りにしたい部分の環境指 標を組み合わせることも一案だ。
当社では、建築コンサルティング業務に環境の視点を取り入れることも行っている。09年に携わった東京都品川区内のビル建設では、1階外構に地域生態系に配慮した在来種を植え、HEPに基づき日本生態系協会がつくった指標であるJHEPの第三者認証を取得するアドバイスを採用してもらった。

岩本:生物多様性の尺度の設定という点では、HEPはベースの考え方になる。ただ、様々な尺度があるのも事実だ。当社では、GPSと生物多様性に関する保有データとを組み合わせ、建設地の緑化計画などが周辺地域の生物多様性に与える影響を「見える化」できるシミュレーション技術を開発している。
これまで、生物環境に配慮した取り組みの成果は、運用段階で確認するしかなかった。これをシミュレーションによって計画段階で顧客に示すことが、これからは重要になってくる。

金井:生態系の破壊を別の場所で取り戻すオフセットにも注目したい。開発一辺倒でなくなった日本では、特に重要性が増すからだ。このオフセットの中核プレーヤーは建設会社だと思う。

岩本:オフセットでも、シミュレーション技術が大切になる。例えば、川の流域のある部分で開発を進めた場合に、開発する場所とそれを代替する場所との質を均衡させていくことが必要だ。こうしたときに、生物多様性に対する精度の高いシミュレーション技術があれば、理解してもらいやすくなる。

▲日経BP社ケンプラッツ 2010年10月11日(月)

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