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2020-05

身近な里山は常に開発と保全のせめぎあい

■淵(ふち)の森

地元の人が「トトロの森」と呼ぶ「淵(ふち)の森」は、埼玉県所沢市と東京都東村山市の境にある。住宅街にぽつんとある小さな森だが、西武池袋線脇の小道を入ってせせらぎにたどり着くと、山奥に迷い込んだような錯覚にとらわれた。
アニメ映画「となりのトトロ」の監督宮崎駿さん(66)は、この近くに住む。散策しながらごみ拾いをするのが日課だ。9月上旬のある朝、宮崎さんは怒りを込めて話した。
「ここに昔、自転車が100台も捨ててあった。それを片づけて木を植え、きれいな森になった」。森には、カワセミやイチリンソウなど貴重な動植物が息づく。「この大切さを、開発業者だけでなく地主や近隣の人も意外に気付かない」
かつて、宅地開発計画から森を守った地元住民は今春、森の対岸の雑木林に持ち上がった宅地開発計画を知る。宮崎さんは「開発で対岸にコンクリート護岸ができれば流れが変わり、土がえぐられる。景観、生態系すべてに影響する」と指摘。東村山市に公有地化してもらうため、全国に寄付を呼び掛けた。宮崎さんは直筆で領収書を書くなど支援したが、地元の不動産仲介業者は激しく反発した。
「宮崎さんのサインほしさに、詳しい事情も知らず寄付している人もいるはず。13戸の住宅をつくり販売するだけ。駅から3分という土地に住みたい人はいる」
著名な監督が先頭に立った保全運動は新聞やテレビで大きく報道され、9月中旬、業者側は事業撤回の意向を表明した。“翻意”の理由を聞くと「勘弁して。この問題で体調も悪くなった」と、言葉少なだった。
首都圏では、大手開発業者が周到な準備で開発を進め、今回のように業者が計画自体を撤回するのは極めてまれだ。「宮崎駿」というビッグネームは、確かに有効だったといえる。しかし、宮崎さんが会長を務める淵の森保全連絡協議会のメンバーは「所沢市の前市長の中井真一郎弁護士もボランティアで参加。領収書を間違いなく送るとか、いろんな人が協力し、徹底的に闘う姿勢がとれたのが大きい」と強調する。
国は「生物多様性国家戦略」と銘打って、都市近郊の里山を守ることに重点を置くが、身近な里山はその身近さゆえ、常に「開発と保全」のせめぎあいにさらされる。
宮崎さんは森の木漏れ日を見上げながら、こうつぶやいた。
「地球温暖化が進んだとき、何が一番豊かなんだろう。身近な緑が、守られていることではないのか」
都心回帰の住宅事情を背景に、首都圏で進む住宅開発。そのあおりで、昔から残っていた数少ない里山が一つ、また一つと消えていく。しかし、地元の緑を守ろうと、取り組む市民も増えてきた。映画などで人気者の森の妖精“トトロ”がすむといわれる、身近な森。開発と保全がぶつかり合う現場から、近所の自然との共生の道筋を考えた。

◇「淵の森」の保全問題 淵の森は約4600平方メートル。約10年前に宅地開発計画が浮上した際、宮崎駿さんが住民グループの中心となり、自身も3億円を提供し所沢、東村山両市が公有地化した。今年3月に宅地開発計画が浮上したのは、森の脇を流れる柳瀬川の対岸の雑木林約1500平方メートル。宮崎さんらの募金活動には全国から約2500万円が集まった。交渉は一時暗礁に乗り上げたが、業者側が一転して地主との契約解除の意向を表明。約7000万円で公有地化のめどがたった。

▲東京新聞 2007年10月1日(月)

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